第104回多言語社会研究会例会のお知らせ
みなさま
以下の要領にて、第104回多言語社会研究会東京例会を開催いたします。奮ってご参加ください。
日時:2026年1月31日(土)14:00-18:00
会場:東京大学(本郷キャンパス)東洋文化研究所 大会議室(3階)
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/access/index.html
参加費:500円(オンライン・対面)
※対面参加者は会場でお支払いください。
※オンライン参加者は例会終了後、下記Zoom登録フォームに入力されたメールアドレス宛てに支払い方法を連絡いたします。
研究会はオンライン(Zoom)でも参加いただけます。
オンラインでの参加を希望される方は、以下のフォームからお申し込みください。
https://zoom.us/meeting/register/20WroBjMSJiObqWTRqEkaA
※オンライン参加の場合、対面参加と同じ水準の経験(音声の聞きやすさ、映像の見やすさ、反応の早さなど)は保証できません。了解の上でお申し込みください。
(以下、各報告の開始時間はおおよその目安ですので、若干前後する可能性もあります。)
<報告1>14:00-16:00
発表タイトル:継承語教育のための初期読み書き指導枠組みの検討―AILEMにおける CELLの受容と応用―
報告者:金箱亜希(愛知県立大学大学院人間発達学研究科)
概要:
日本では外国にルーツをもつ子どもの増加に伴い、継承語教育の重要性が高まりつつある一方で、初期リテラシーを中心とする体系的な指導法は十分に整備されていない。これに対して海外では、多様な言語背景をもつ子どもの学習を支える初期リテラシー教育の指導枠組みが発展してきた。本発表では、まず米国カリフォルニア州で構築されたCELL(California Early Literacy Learning)プログラムに着目する。CELLは、多様な家庭言語をもつ子どもに対する初期リテラシー指導の構造化された枠組みを提示している。
続いて、このCELLを基盤としてチリで開発されたAILEM(Aprendizaje Inicial de Lectura, Escritura y Matemática)プログラムを取り上げる。AILEMは、チリの教育政策や教育環境に適合させる形で再文脈化された読み書き指導法の枠組みである。現地の教育政策や社会的背景に応じて、CELLがどのように受容され、どのように修正・応用されてAILEMへと変容したのかを分析することで、教育プログラムの実践化プロセスを示す。最後に、これらの分析から得られた知見をもとに、日本における継承語教育の初期リテラシーの指導法を構築する際に参照し得る視点を提示する。
<報告2> 16:00-18:00
発表タイトル:医療通訳者はどのように会話に“関与”するのか:メディエーション視点からの分析
報告者:森田直美(東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)
概要:
本発表は、医療通訳を「メディエーション(仲介)」として再定義する視点を提示し、その実践的含意を明らかにすることを目的とする。CEFR(2001)の「仲介活動と方略(4.4.4)」およびCEFR Companion Volume(2020)の「コミュニケーションの仲介(3.4.1.3)」を手がかりに、医師・患者・通訳者がつくる相互行為の中で、通訳者がどのように意味の再構成・調整・修復を行っているのかを、具体的な会話データを用いて検討する。医療場面では、単なる言語的置換では伝わらない概念的・文化的・語用論的なずれが生じやすく、通訳者は「予見」「隙間の補填」「モニタリング」などの仲介方略を用いて、相互理解を支えている。また、通訳者が発揮する判断や修復行為は三宮(2017)のメタ認知的活動とも合致し、医療通訳の専門性を単なる中立的伝達ではなく「動的中立性」として捉え直す必要性が示唆される。
本発表では、模擬医療面接を用いた分析から得られた複数の事例を通して、通訳者が果たす相互行為の調整機能、患者中心のコミュニケーションを支える仲介的役割、そして医療安全に寄与する意義を提示する。最後に、教育的応用として、メタ認知的気づきを促すケース教材、振り返り、相互行為分析の活用を示し、通訳者を会話の「共同構築者」として育成するための方向性を提案する。