第78回多言語社会研究会例会のお知らせ

多言語社会研究会第78回東京例会を、下記の通り開催いたします。

みなさまふるってご参加いただきますよう、お願いいたします。


日時:2019年1月26日(土)午後2時〜6時

場所:女子美術大学杉並キャンパス 6103教室

   http://www.joshibi.ac.jp/access/suginami

資料代:500円

<報告1>

タイトル:「章炳麟と『臺灣日日新報』―『民報期』の言語観への手がかりとして―」

報告者:土屋真一(明海大学大学院応用言語学研究科博士後期課程1年)

キーワード:章炳麟・『台湾日日新報』・民族主義・文字言語

概要:「駁中國用萬國新語説(中国、万国新語を用いる説を駁す)」を著した章炳麟は、清朝末期の文字改革運動におい同時期に発表された代表的な文字改革運動の論者たちとは異なる主張を展開した。

 この異なりとは他の代表的な文字改革運動は富国強兵をめざし教育の普及を目的とし、清朝政府の役人などを通じて文字改革運動を展開させたのに対し、章炳麟は教育の普及ではなく、民族の復興を目的とした漢字廃止論とエスペラント推進派への反駁を主題に反切を活用した記音字母の提案や草書や小篆という隷書を簡略した文字の普及をうったえたことにある。民族の復興とは漢民族が再興することを指し、つまりは章炳麟の民族主義にあたるふしがある。章炳麟がこのような考えを抱くにはいかなる経緯をたどってきたのであろうか。

 本研究では、その一過程として戊戌政変後台湾亡命していた時期に注目するとともに、当時章炳麟が就職していた『臺灣日日新報』で発表した「失機論」を中心に検証をおこなうこととする。そして台湾亡命時期が章炳麟にとって民族主義を形成する一過程であったことを明らかにしたいと考える。

 なお章炳麟と『臺灣日日新報』に関する先行研究については、先駆的研究として阿川修三氏はが『漢文学会会報第四十号』において「『台湾日日新報』所載章炳麟論文について」という表題のもと、章炳麟が戊戌政変で台湾に逃れたとき勤めていた新聞社が従来『台北日報』といわれていたが、実は『臺灣日日新報』であったことを発見し、新資料として紹介したうえで、過去の章炳麟研究に戊戌政変後の変法派との関係について新たな知見を与えている。また湯志鈞・近藤邦康の両氏は『中国近代の思想家』のなかで台湾亡命期の章炳麟についてとりあげ、阿川修三氏の発見の新資料として『臺灣日日新報』を紹介した。また湯志鈞・近藤邦康の両氏は『臺灣日日新報』の漢文欄に掲載された章炳麟の論説について分析をおこない、章炳麟の政治観とくに清朝政府や西太后に対する批判に関して論述している。

 以上の先行研究から当時の台湾が日本統治下であったゆえ、『臺灣日日新報』において章炳麟の清朝政府への直接的批判の具現化したことがわかる。


<報告2>

タイトル:社会言語学の課題としての医療通訳研究

報告者:糸魚川美樹(愛知県立大学外国語学部)

概要: 厚生労働省による「医療通訳カリキュラム基準」および医療通訳のテキスト(多文化共生きょうと2014年作成、2017年改定)の発表、外国人患者受け入れ医療機関認証制度(医療通訳拠点病院)の開始(2015年)、「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」の設置(2018年)など、医療通訳をめぐる国の動きが近年目立つ。自治体においてもNPOや国際交流協会などによって医療通訳者養成・派遣事業を立ち上げるところが増え、これらの事業や医療通訳者をつなぐ全国医療通訳者協会も2016年12月に設立された。2019年度には医療通訳認証(学会認証)が開始される予定である。

 医療通訳への関心は高まっており、関連シンポジウムが毎年どこかで開催され、医療系学会の大会でも分科会が企画されている。医療系専門誌にも医療通訳に関する特集が組まれている。近年の医療通訳をめぐる動き・議論・研究を紹介しながら、社会言語学が医療通訳とどう関われるのかを考える。