第79回多言語社会研究会例会のお知らせ
多言語社会研究会第79回東京例会を、下記の通り開催いたします。
みなさまふるってご参加いただきますよう、お願いいたします。
※会場が前回と異なります。ご注意ください。
日時:2019年4月27日(土)午後2時~6時
会場:東京大学東洋文化研究所3階、大会議室
(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/access/index.html )
資料代:500円
<報告1>
タイトル:ディスレクシア(読字障害)を社会言語学的視点から考える
報告者:成田 あゆみ(ディスレクシア英語塾「もじこ塾」主宰)
概 要:ディスレクシア(dyslexia)は、知能は普通で、教育を受けたにもかかわらず、読字の流暢性や正確性に困難を抱える脳神経上の特性であり、学習障害のひとつである。音韻認識,字形認識,言語の線形性に対する認識の困難が組み合わされて起きるとされ,関連する脳内部位の特定も進みつつあるが,原因の完全な特定には至っていない。出現率は言語により異なり、日本の小学校では6.5%、英語圏では10%から30%近くとされる。話し言葉の運用能力はむしろ高いほか,空間認知能力やシミュレーション能力に長ける場合が少なくない。読字障害の存在は日本ではまだ周知されておらず,本人の特性受容や教育現場の対応は進んでいないのが現状である。
ディスレクシアの存在は、母語話者集団内でも言語能力は均質的でないこと、読み書きの壁に日々苦労する日本語母語話者が20人に1人はいることを明らかにする。一方,社会言語学の知見はディスレクシアの周知や対応に役立つ可能性も秘めている。本発表では、ディスレクシアの学生が日本語と英語の学習で直面する困難を紹介し、社会言語学がディスレクシアの理解と啓発にどう貢献できるか考察したい。
<報告2>
タイトル:知的障害者への情報保障 ─「わかりやすさ」と「合理的配慮」をめぐって─
報告者:打浪 文子 (淑徳大学短期大学部)
概 要: 2014年に日本が批准した「障害者の権利に関する条約」にも謳われているように、情報化社会の発展に伴う障害者の情報保障は重要な今日的課題の一つである。情報工学・福祉工学等を中心とした情報支援技術の追究により、視覚・聴覚障害者等への感覚モダリティの変換による情報保障は大きく進展してきた。しかし一方、自己選択や自己決定に難しさを有する知的障害者は、情報支援技術の改善のみでは困難が十分に解消されず、言語に関する複合的な差別および情報格差の下に置かれ続けている。
本報告では、知的障害者の置かれている言語的状況を、社会言語学・障害学の概念を借りながら整理する。それらに基づき、日本語の「わかりやすさ」および障害者への「合理的配慮」の観点から、知的障害者への情報保障の必要性とその具体的なあり方を検討する。さらに、日本語のわかりやすさに関わる諸分野(外国人住民向けの「やさしい日本語」等)との相違・共通点を指摘し、わかりやすい日本語による情報保障の連携可能性と社会的な課題を論じる。