第87回多言語社会研究会例会のお知らせ

10月16日(土)に、第87回研究会例会をオンライン(Zoom)にて開催いたします。

みなさまふるってご参加いただきますよう、お願いいたします。

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日時:2021年10月16日(土)14:00-18:00

場所:Zoomにて開催します。

参加費:無料

<報告1>

報告者:杉浦黎(東京大学大学院 総合文化研究科 言語情報科学専攻)

報告タイトル:「「アルザス語」の過去・現在・未来―境界都市ストラスブールの言語景観調査とインタビュー調査に基づく考察―」

要旨:

 長年にわたりアルザス地域は地理的、政治的、文化的に「境界」という空間に位置してきた。本報告は、独仏国境地域に位置するアルザス地域の言語状況に焦点を当てる。ヨーロッパにおいて地域少数言語の保護や複言語教育の重要性が強調されている点や地域語「アルザス語」が抱えてきた複雑さを踏まえつつ、今後どのような道を歩む可能性を持つのかについて考察する。本報告は2019年にストラスブールで実施したフィールドワークに基づく。アルザス語の実態に迫るために、どのようにアルザス語が公共空間の中で用いられるのか、どのようにアルザス語は人々によって認識されているのかという2点を問題として設定する。調査手法は1)ストラスブールの三つの広場周辺での言語景観調査、2)非公式インタビュー調査である。言語景観調査からはフランス語が優勢でありながらも、通り名や伝統的な食べ物を指し示す場合にアルザス語が用いられ、地域の象徴としての位置付けであることが分かった。インタビュー調査からはアルザス語への態度や認識におけるばらつきを観察することができた。本報告では、この調査から得られた考察とアルザス語を取り巻く言語政策に基づき、アルザス語の新たな存続の可能性を示唆する。


<報告2>

報告者:石部尚登(日本大学)

報告タイトル:ベルギーの移民(統合)政策と「言語要件」について

要旨:

 この10年ほどの間、ヨーロッパで多文化主義の「行き詰まり」が政治家や研究者など多方面から指摘されてきた。現在、「多文化主義の死/退潮/反動」、またその裏返しとしての「排外主義の勃興」が移民(政策)研究の重要なテーマのひとつとなっている。そうしたなかでベルギーの移民(統合)政策は、一方では、2015年からの一連のテロ事件を受けて「テロの温床」や「悪の巣窟」を生みだしている元凶としてその不備が指摘される。他方、移民統合政策指数(MIPEX)ではベルギーは52カ国中7位、「包括的な統合」政策が用意されている国と肯定的な評価が与えられている。最終的な評価は正反対であるが、いずれもその根拠とされているのはその政策の「寛容さ」である。本報告では移民(統合)政策のなかでも特に「言語要件」に着目し、(1)そうしたベルギーの移民(統合)政策の「寛容さ」が移民(多文化主義)への配慮というよりはむしろ制度的な帰結であること、また(2)移民(統合)政策の厳格化というヨーロッパの共通トレンドとも決して無縁ではないことを示す。なお、分析にあたっては、連邦国家であるベルギーでは移民政策の主体が複数存在するため政策主体ごとの移民(統合)政策を比較する。