第93回多言語社会研究会例会のお知らせ

第93回多言語社会研究会例会を、オンライン(Zoom)にて開催いたします。

みなさまふるってご参加ください。

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日時:2023年4月22日(土)14:00-18:00

場所:Zoomにて開催

参加費:無料


参加を希望される方は以下のフォームからお申し込みください。

https://zoom.us/meeting/register/tJIvceytpzgvEtHJDzSEKkk1ZJTTIlsnC3lE


<報告1>

立花有希(宇都宮大学)

「Bildungsspracheの概念をめぐる理論的・実践的展開に基づく教育的包摂に関する考察」

 近年、日本語指導が必要な児童生徒が急増し、日本語教育の充実が求められているところであるが、その文脈では「学習言語」という語が「教科学習に必要な言語能力」という意味で用いられている。一方、ドイツの学校教育に関する理論および政策では、この学習言語に相当する概念はBildungsspracheという語で表現され、その源となったのはハーバーマスの「教養語」(Bildungssprache)に関する考察である。いわゆる教養層が使うことばという意味で一般に用いられていたBildungsspracheの語に対するハーバーマスの解釈を継承し、さらにカミンズのバイリンガル教育研究やバーンステインの社会学研究などを参照しながら教育学分野で発展してきたドイツの“学習言語”概念には、社会階層に対するまなざしが多分に含まれ、学校への適応にとどまらない広がりが含意されているという点で、日本はもとより、北米での学習言語の議論とも異なる性格が認められる。

 本発表では、ハーバーマスが論じたところのBildungsspracheの機能と役割に改めて光をあてた上で、Bildungsspracheの概念をめぐる理論的・実践的展開を通して、学校教育における包摂についての理念的説明を試みたい。


<報告2>

王剣豪(一橋大学言語社会研究科後期課程)

「日本語教育における技術論の継承−「直接法」の問題を中心に−」

 本発表では、戦後の日本語教育は戦前・戦時下のそれとどのように連続しているか、どのように断絶しているかという大きな問いのもとで、戦前戦後一貫して使われている日本語教授法の代表格である「直接法」が戦後に継承された過程を検証する。

 戦後日本語教育のあり方は過去のそれと大きく異なるように見えるが、戦後の日本語教育はまったく白紙の状態から再出発したわけではなく、戦中までの日本語教育との間に、人的・組織的・教授法や教材といった技術論的な連続性が見いだせることは、すでに先行研究によって指摘されている。これらの指摘を踏まえ、本発表では、戦前・戦時下では「日本精神」とセットで語られた「直接法」がいかに戦後において主流の教授法となったかを考察する。このような考察を通して、戦前の「遺産」を引き継いだ日本語教育はいかに戦後の状況に対応して始まったか、そしてその際に清算しきれていない問題点は何なのか、といった問題の一端を垣間見ることを目的とする。