第96回多言語社会研究会例会のお知らせ
日時:2024年1月27日(土)14:00-18:00
会場:東京大学(本郷キャンパス)東洋文化研究所3階大会議室
https://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/access/index.html
参加費:500円(資料代として)
なお、今回の研究会はオンライン(Zoom)でも参加頂けます。
オンラインでの参加を希望される方は以下のフォームからお申し込み下さい。
https://zoom.us/meeting/register/tJEuc-qhqDwoG9FVCmzIQmHbB7VKR4wvN7IA
(以下、各報告の開始時間はおおよその目安ですので、若干前後する可能性もあります)
<報告1>(14:00~)
タイトル 日本語学習者にとって「特別支援学級」で学ぶ意味と進路選択への影響
報告者 市川章子(一橋大学大学院言語社会研究科)
概要 近年、日本語指導が必要な中学生等の進学率について、高等学校や専修学校等への進学率は全中学生等の進学率99.2%に対して89.9%と差があることが明らかになった。先行研究では、第二言語環境にある子どもの特別な教育的ニーズの把握の困難さや海外における特別支援教育を受ける移民の子どもの割合の高さについて指摘されている。また、新聞報道などによると、特別支援学級に在籍する児童生徒の割合は、外国籍とそれ以外の間でほとんど違いがない自治体も見られるという指摘もある。
本発表では、日本語学習者にとって「特別支援学級」で学ぶ意味と進路選択への影響について、中学校と高校で学ぶ日本語学習者の事例、小学校で特別支援学級に関わる教員へのインタビュー結果をもとに文化心理学のアプローチを用いて検討する。同時に、「特別支援」という概念の使い方の是非や日本語学習者が自分自身を肯定しながら日本社会で能動的に生きる力を育てる日本語教育についても考えていきたい。
キーワード:日本語学習者 特別支援 文化心理学
<報告2-1>(16:10~)
タイトル 『台湾語と文字の社会言語学』を振り返る
報告者 吉田真悟(一橋大学)
概要 本発表では、拙著『台湾語と文字の社会言語学―記述的ダイグラフィア研究の試み』(2023年、三元社)の内容を主に紹介し、最後にその後の研究の展開についても述べる。台湾における多数派の母語であった台湾(閩南)語は、近代以降に生まれた書記を伴う公共領域への参入を阻まれ、1980年代頃からの民主化と言語復興の機運の中で、ようやく書記言語の確立が始まった。本書はそんな台湾語の現代における文字使用の様相を、使用領域及び言語イデオロギーの両面から記述したものである。その結果、文字の標準化・規範化が進む一方で、漢字とローマ字の「ダイグラフィア」(一つの言語に複数の文字が用いられる現象)に基づく多様性も維持されている実態と、その深層で人々の意識がどのように作用しているかが明らかになった。本書では触れられなかったテーマとして、優勢言語である台湾華語(台湾の標準中国語)と台湾語の関係が挙げられるが、現在はそこにも光を当てるべく、若年層の言語レパートリーや言語意識の調査を進めている。
キーワード:台湾語 文字 ダイグラフィア
<報告2-2>(17:05~)
タイトル 「簡明漢語」(「やさしい中国語」)に関する一考察
藤井久美子(東洋大学)
概要 コロナ禍が始まった2020年3月、中華人民共和国では日本の「やさしい日本語」にならって「簡明漢語」というものが公布された。「やさしい日本語」の中国語訳が「簡明日語」であることから、「簡明漢語」は「やさしい中国語」と訳してよいであろう。そもそも「簡明漢語」ということばは中国では1980年から用いられていることがわかっている。また、「やさしい中国語」ということばも、近年では文法を簡易化した学習しやすい中国語という意味で、中国語教育の分野でも使用されるようになってきた。「やさしい日本語」を含め「やさしい○○語」にさまざまな論点が見出されるように、「簡明漢語」も言語政策的にも課題を有する。そこで、本発表では、コロナ禍を通じて論じられてきた「簡明漢語」が果たす役割について明らかにしておきたい。
(本発表は、2021年6月に開催された日本言語政策学会での発表を主に、その後の状況をいくらか付け加えたものであることをあらかじめおことわりしておきたい)
キーワード:簡明漢語 中華人民共和国 言語政策